自社株式の株価を引き下げる対策には保険が活用できる?

中小企業の経営者が事業承継の際に問題視することは、後継者を誰にするか、そして後継者をいつ、どの時点で引き継ぐかなどを決めなくてはならないことです。相続税対策の中心となるのは事業承継のための具体的な事前準備です。

経営者個人が整理すべき個保有の自社株式

まずは自社の株式の保有割合と評価額について把握していきましょう。株式が分散している場合には、保有自社株式は後継者に譲渡するのみで経営権が譲渡ということにはなりません。また、自社株式の評価方法などは顧問の税理士や会計士など専門家に依頼すると良いでしょう。

後継者に自社株式を譲るときの問題点

経営者自身が保有する自社株式を後継者に渡したい場合、まず問題になるのは自社株の評価額が税法上でどのくらいになるかということです。自社株式の評価額が高いと、後継者へ自社株を譲渡するときの売却額が高額になってしまいます。贈与や相続で後継者に自社株を移転するという場合でも、贈与税や相続税が高くなってしまいます。自社株式を後継者に円滑に渡すことができるようにするためには、自社株式の評価額を引き下げ購入費用や税負担をできるだけ軽減させることが必要になります。例えば発行済株式数1,000株の全てを経営者が所有していた場合、承継者である子供に贈与する場合はどうでしょう。経営者が所有する自社株式を一度に全部子供に贈与した場合には多額の贈与税が課税されることになります。

・贈与税が高くなる原因

贈与税が高くなる原因として、自社株式の価値が関係します。会社設立当時は1株1万円だった自社株が、数十年の月日を経て贈与時には1株10万円と上昇していた場合などは贈与税が一気に高くなります。そのため税負担を軽減するためには株価を引き下げることが重要になります。

株価に強く影響するのは「利益」

上場していない企業の株価は、利益、純資産、配当の3つの要素で決定されます。この中で最も影響力が高いのは利益によるもので、他の2つの要素よりはるかに高いといえるでしょう。そのため利益を一時的に引き下げれば株価自体も引き下がることになります。

利益圧縮で株価の引き下げを行うには

どのような方法で株価を引き下げるかについては、次のような方法で利益圧縮を可能とし、結果として株価の引き下げに繋がります。

・役員退職金を支給する

経営者である社長が退任した場合には退職金を支給することになるでしょうが、これによって株価を引き下げることが可能です。ただし経営者である社長が退職してしまうと、企業経営に支障をきたしてしまう場合が多いため、社長がよっぽど高齢な場合や後継者が成熟していて安心して任せることができるという状況でなければ実際に活用することは難しいでしょう。このため役員生命保険を用いるという方法が一般的です。

・役員生命保険を活用する

今は社長が退職できる状況とは言えないけれど、仮に10年起てば可能になるだろうと想定できる場合には、解約返戻金が10年後にピークを迎える設定をした「逓増定期保険」等に加入します。逓増定期保険は解約返戻率が高く、さらに保険料の半分を損金とすることが可能です。

10年後に役員退職金を支払うまで

実際に10年後、退職した際に1億円の役員退職金を支給するという場合には年間保険料1,000万円の逓増定期保険に加入します。10年間の保険料支払い合計額は1億円ですので、解約返戻金を1億円にすれば役員退職金の支給原資を確保することが可能です。

・保険料支払い時の仕訳

支払保険料500万円 保険積立金500万円 / 現預金1,000万円

・10年後の解約返戻金受け取り時の仕訳

現預金1億円 / 保険積立金5,000万円 雑収入5,000万円

・退職金支払い時の仕訳

退職金1億円 / 現金預金1億円

毎年支払う保険料の1,000万円の半分である500万円は法人の損金に算入できますので、利益を500万円押し下げることになります。このことが株価を引き下げる効果につながり、さらに法人の貸借対照表上は10年間の合計1億円の預金が減少して保険積立金が増加します。保険積立金の評価額は保険料支払累計額を下回ることで純資産は減少し、さらに株価引き下げ効果を発揮できるということになるでしょう。10年後に保険を解約して経営者へ役員退職金を支払った場合には、保険解約益5,000万円が発生します。しかし役員退職金の支給額1億円は全て損金になるため、解約による税金は発生しません。

その他、自社株式の価額を引下げる方法とは?

自社株の評価額を引下げる必要性と評価額を引き下げる方法については、会社の利益を一時的に圧縮するために保険を活用するという方法以外にも次のような方法があります。

・オペレーティングリースを活用

リース会社が実質運営している匿名組合に出資することで、匿名組合の損益を会社に取りこみ利益を圧縮することができます。例えば航空会社や海運会社に対して、リース会社が飛行機や船舶のリース目的で匿名組合を設立します。損金を前倒しで出し利益を圧縮するニーズのある投資家を募り、資金調達を行います。出資金にノンリコースローンで調達した借入金を合わせ、飛行機や船舶などのリース資産を購入し、資産を航空会社や海運会社にリースするという事業を行うことになります。

・オペレーティングリースの注意点

途中解約ができないことで出資してから8~10年後に満期を迎えるまでは資金が固定化されてしまいます。また、元本保証がなくドルベースの投資案件が多いという部分も注意しましょう。満期を迎えた時には、出資額と同じ金額の益金が計上されますので満期時には役員退職金を支給するといった対策を事前に講じておく必要があるでしょう。商品の特性をしっかりと理解して取り組むようにしましょう。匿名組合の損益については、減価償却負担が大きく赤字になり2~3年で出資額全額の損金算入が可能です。10年間の投資期間で通算した場合には、8~10%程度の投資利回りが得られるケースが多いため、投資案件としての魅力も備えています。

・有価証券や不動産の含み損を活用

有価証券やゴルフ会員権、不動産など、会社が保有している資産に含み損がある場合、不要な資産なら外部に売却、必要な資産なら経営者個人や関係会社に売却することで含み損を実現させることができます。これによって株価の引き下げに繋がります。

・グリーン投資減税などの特別償却を活用

取得年度に取得金額全額が償却可能となる制度を活用して、利益圧縮や株価引き下げを行いましょう。太陽光発電設備を設置した場合や、高額の機械や設備、ソフトウェアの購入や投資をした場合に利用できる優遇税制です。例えば太陽光発電設備は固定価格買取制度の設備認定を受けた10kW以上の設備、風力発電設備なら固定価格買取制度の設備認定を受けた1万kW以上の設備が対象です。青色申告書を提出する個人や法人が、対象設備を取得して1年以内に事業用に供した場合には取得価額の30%特別償却、もしくは中小企業者などのみ7%税額控除のいずれかを選んで税制優遇を受けることができます。

保険を使う、もしくは制度を利用して事業承継対策を

自社株式の株価を高額なまま譲渡してしまうと、多額の贈与税が課税される可能性がありますので、役員に退職金を支給する、もしくは生命保険に加入し利益を下げて株価を下げるという方法を活用すると良いでしょう。一時的に利益を引き下げて株価対策を行う方法として、オペレーティングリースを活用する方法や、資産の含み損を利用して売却で損失計上し株価を引下げるなどの方法があります。また、事業用に供する目的で太陽光発電設備を取得した場合には減税措置などを活用することもできます。