保険料が損金算入できる「逓増定期保険」

一般的にはあまり耳なじみのない『逓増定期保険』。しかし、法人における加入率は高く、多数の企業で、主に財務戦略の観点から活用されている生命保険商品です。

『逓増定期保険』の概要

『逓増定期保険(ていぞうていきほけん)』は、主に中小企業法人の役員に対してかけられる保険。法人契約用につくられた商品なので、事業や企業の発展・成長、加入者の年齢とともに死亡保険金額が増加していくシステムが取られています。これは、役員の責任および経営力が年々増していくことが想定されており、その分、保障額も増加していくのです。

 

保険料のアップはなく、払い込み期間を通して一定になりますが、定められた期間を経過した後の死亡保険金は、契約時の5倍まで増額します。このように、段々増えていくことを『逓増』といい、保険期間中の補償額の増加がイメージしやすくなっています。

定期保険ですので、保険期間が終了すれば保障はなくなってしまいますし、満期の給付金もでません。ただし、保険契約期間中に解約した場合ついては、解約返戻金が発生します。経過年数に応じて発生する解約返戻金は、保険料の変動がないためかなりの高額になります。

尚、経営者ではない工場の責任者や、主要部門の管理職といった、企業存続に多大な影響のある社員も例外的に加入できるケースがありますし、保険会社と保険商品によっては、個人での契約も可能になっています。契約にあたっては、一般的な生命保険と同じで健康診断の結果を提出する必要があります。

 

健康状態によって、支払い保険料の割り増しや、保険金のカットなどの不利を受けるケースもあります。とはいっても、割り増しを受けた分についても、保険料は、解約返戻金の対象となるケースがほとんどですので、解約時の返戻金がかえって増額する可能性も考えられます。月々の保険料が問題なく支払えるのであれば、割り増されたされたことがマイナスにならないかもしれないということです。

『逓増定期保険』の加入目的とメリット

『逓増定期保険』は、本来の大目的である死亡保障機能はもちろん、それ以外の狙いをもって加入されるケースが多い生命保険商品です。まず、『中途解約時の解約の返戻金が高額になる』ことから、非常に高い資産性を持っています。そのため、役員が勇退する際の生存退職金や、会社の将来のための経営資金の形成に、活用できるのです。解約返戻金が、他の貯蓄性がある保険商品に比べて、短期間で大きく積みあがるのも選ばれるポイントのひとつでしょう。

それから、『逓増定期保険』の支払い保険料については、一部を決められたルールのもと、損金へ算入することができます(残りの2分の1については資産に計上、保険期間の開始の時から当該保険期間の60%に相当する期間)。
※法人税基本通達 9-3-5、国税庁個別通達昭和62.6.16直法2-2(例規)(平成8.7.4課法2-3(例規)により改正、平成20.2.28課法2-3課審5-18により改正)、法人税基本通達 2-2-14

損金に計上できれば利益の圧縮になりますから、税金も安くなり、結果的に実質の保険料負担は軽減されます。利益の繰り延べに効果を発揮する保険ということですね。

資金的なところでいうと、『逓増定期保険』に加入したことによって、融資が受けられるというのも利点でしょう。貸付の条件、ルールに合致していれば、積み立てされている解約返戻金のうち、定められた割合の範囲内で『契約者貸付制度』の利用ができ、資金を活用できるのです。

 

もちろん、この制度を利用したからといって、保障が切れることはありません。生命保険としての保障を継続したまま、緊急時・商機の資金需要に対応できます。尚、積み立てしている解約時の返戻金が原資になるところまでは同じなのですが、保険会社各社によって、適用される金利や、解約返戻金に対しての融資を受けられる割合が異なってきます。そもそも、『契約者貸付制度』の仕組みがない『逓増定期保険』もございますので、あらかじめしっかり確認しておきましょう。

利益を圧縮して利益の繰り延べを行うことや、高額の解約返戻金。内部留保を高めて資金を有効活用させ、企業の経営を長期的に安定させたい――。そんな経営陣の願いを叶える、財務戦略のキーとなることが、『逓増定期保険』の加入目的であり、メリットなのです。

『逓増定期保険』のデメリット

『逓増定期保険』という生命保険商品には、加入によって得られる多くのメリットがあることをご紹介しました。ですが、メリットがあればデメリットもあるものです。メリットとデメリットを天秤にかけて、どう判断していくかがポイントになりそうです。

1つ目は、『逓増定期保険』の特長でもあるのですが、保険金額に対する支払い保険料が高いこと。同額の死亡保証金を確保するという観点から考えると、一般的な掛け捨ての定期保険に加入した場合のほうが、単純なコストパフォーマンスは良くなってしまいます。得られる恩恵がそれを上回るケースがほとんどですが、支払いの見通しが立ちにくいのであれば、無理のない計画で金額を設定することや、加入自体を再検討しなければならないでしょう。

次に、解約返戻金の返戻率が、ピークを迎えるタイミングで確実に解約できるかという問題。保険商品の種類によっては、概ね5~10年で払い込んだ保険料相当の返戻金が受け取れますが、保険料が工面できなかったり経営状態によっては、想定よりも早期に解約せざるを得ないこともあるはず。そうなると、解約返戻金は見込みよりも大幅に低額になってしまいます。
解約返戻金を受け取れたとしても、また別の壁が立ちはだかります。それが、解約返戻金への課税です。

支払った保険料を損金計上できる『逓増定期保険』ですが、途中の保険解約による解約返戻金か、保険金を受け取った場合については、事情が変わってきます。これら保険金等を受領したら、損益算入していない、残りの2分の1、つまり資産として計上されている金額と差し引きしたうえで、『益金』を計上しなければならないのです。

具体的には、支払った保険料の総額が80だとすれば、経理処理においては、半分にあたる40を損金と資産に、それぞれに計上しているはず。『逓増定期保険』の解約時の返戻金は、このケースでは60戻ってきたと仮定しますが、その帰ってきた解約返戻金が60の場合だと、60から資産計上分の40を差し引くことになります。

解約返戻金60 -支払い済み保険料積み立て金40

すると、上述の計算から算出した20という数字が、『益金』として計上しなければならなくなります。この益金20が法人税などの課税対象額になるのです。差し引きした益金と同額以上の損益が出ていれば、当然に課税は免れますが、そのほかのケースだと、雑収入として扱われてしまうのです。
ピークを迎えた時に解約返戻金を多く得られるメリットのある、『逓増定期保険』。この特性を最大限活用するためにも、益金への課税に対する対策を検討してください。

『逓増定期保険』を契約した経営者の方々は、入口(保険契約締結時)の段階で、出口(保険終了時点)戦略まで立てておくことが重要です。もし、既に『逓増定期保険』を契約している経営者の方が、解約金の解約返戻率がピークに入ろうとする時期に近づいた段階で、出口戦略についてのお悩みをお持ちでしたら、早めに専門家へ相談されることをオススメします。想定される解約時の返戻金をもとに、どこまで対策が取れるか、プロならではのテクニックは、経営の一助となるでしょう。