退職金には税金がかかるのでしょうか?

退職金制度は法律で定められているわけではありませんが、実際には7割以上の企業で支給されているというデータが公表されています(厚生労働省「平成25年就労条件総合調査結果の概況」)。また、退職金の規定が整っていなくても、既に退職した方々が退職金を受け取っている実例があれば、支払われる可能性はあるものです。

全企業における退職金の給付制度がある企業の割合は、平成5年をピークに減少傾向にあります。とはいえ、従業員数1,000名以上の企業では、93.6%で導入されており、同程度の規模の企業にお勤めの方は、ほとんどが退職金を受け取るものと考えられます。しかし、ただ漠然と退職金という言葉を知ってはいても、その支給にあたっての税負担など細かい部分まで把握していることは少ないのではないでしょうか。
そこで今回は、退職金と退職金にかかわる課税についてを中心にご紹介いたします。

○退職金はいくらもらえるのか?

厚生労働省が調査した「平成25年度就労条件総合調査結果の概況」によれば、平成24年の1年間における定年退職者の退職金は以下の通りです。
大卒(管理・事務・技術職):2,156万円
高卒(管理・事務・技術職):1,965万円
高卒(現業職):1,484万円

参考:厚生労働省「(2) 退職給付額ア退職事由別退職給付額」

http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/13/gaiyou05.html
これらは勤続35年以上の定年退職者を対象としており、給与42ヶ月相当額が支給されています。
次に参照するデータは、2015年4月に日本経済団体連合会から発表されている、「2014年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」です。なお、この調査結果は、標準的に進学し、卒業後ただちに入社し、標準的に昇進・昇格したものが60歳で定年退職した場合(総合職の管理・事務・技術労働者)であることを前提としています。
大卒:2,357.7万円
高卒:2,154.9万円

参考:日本経済団体連合会「Ⅱ. 調査結果の概要1.標準者退職金」

https://www.keidanren.or.jp/policy/2015/042.pdf
続いて、中小企業を調査対象とした場合の退職金についても、みてみましょう。平成26年12月に東京都産業労働局労働相談情報センターが、「中小企業の賃金・退職金事情 平成26年版」(従業員10人~300人未満の都内の中小企業が対象)というデータを公表しています。
60歳定年退職のモデルケースは以下のとおりです。
大卒:1,383.9万円
高専・短大卒:1,234.5万円
高卒:1,219.1万円

参考:東京都産業労働局労働相談情報センター「【表4】モデル退職金」

http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2014/12/DATA/60ocp200.pdf
会社の規模や職種、退職金の給付制度(退職一時金制度、退職年金制度)による額面の変動はありますが、ひとつの目安として参考になれば幸いです。

○退職金にかかわる税金について

退職金はほかの所得とは別で、分離して所得税が課税されます。いわゆる、分離課税方式です。分類としては「退職所得」の扱いになります。この退職所得ですが、退職金として受け取った総額そのままの金額が課税対象というわけではありません。
退職所得は給与やその他の所得よりも税務上優遇されていて、『退職所得控除』『2分の1課税』など税金を軽減できる仕組みが確立されています。
したがって、退職金にまつわる課税の計算は以下のようになります。

退職所得金額 = (収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 2分の1
勤務年数20年以下の退職所得控除額 = 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
※80万円に満たないときは、80万円とみなす。
※勤続年数のうち、1年に満たない端数があれば1年とみなす。
勤続年数20年超の退職所得控除額 = 70万円 × (勤続年数―20年) + 800万円
※勤続年数のうち、1年に満たない端数があれば1年とみなす。

参考:国税庁No.1420 「退職金を受け取ったとき」(退職所得)

https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1420.htm
なお、役員の方で任期が5年以下である人が退職金の支払いを受ける場合においては、平成25年度以後の年度では2分の1の計算は適用されず、退職金の金額から退職所得控除を差し引いた金額となります。
※上で言う役員は、以下に該当する方が対象です。
「法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している一定の者」「国会議員及び地方公共団体の議会の議員」「国家公務員及び地方公務員」
これらから算出した退職所得金額に所得税と住民税が課税されていきます。

○退職金にまつわる所得税の税率について

所得税の税率は、所得額に応じて5%~45%の7段階に区分されています。
(平成28年4月1日現在)

課税所得金額:195万円以下
税率:5%
控除額:0円

課税所得金額:195万円を超え 330万円以下
税率:10%
控除額:97,500円

課税所得金額:330万円を超え 695万円以下
税率:20%
控除額:427,500円

課税所得金額:695万円を超え 900万円以下
税率:23%
控除額:636,000円

課税所得金額:900万円を超え 1,800万円以下
税率:33%
控除額:1,536,000円

課税所得金額:1,800万円を超え 4,000万円以下
税率:40%
控除額:2,796,000円

課税所得金額:4,000万円超
税率:45%
控除額:4,796,000円

また、平成25年から平成49年までの各年度においては、所得税と復興特別所得税(その年分の基準所得税額の2.1%)が課税されます。
すなわち、所得税の計算は以下で行えばいいことになります。
(課税退職所得金額 × 所得税率 - 控除額)× 復興特別所得税

参考:国税庁No2260 所得税の税率
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2260.htm

○退職金にまつわる住民税の税率について

住民税は居住している都道府県と市区町村に支払う、2種類の地方税の合計額です。
税率の内訳は次のようになっています。
都民税(県民税、道民税、府民税):4%
市区町村税:6%
→合計10%
退職所得金額には、以上2つをあわせた10%が住民税として課税されることになります。(100円未満切捨て)
課税退職所得金額 × 10% = 退職金に対する住民税の額
( 地方税法50条の2~4、328条~328条の3、所得税法30条)
それでは、実際に計算を行ってみまましょう。

モデルケース:
勤続30年、退職金2,000万円、東京23区在住の場合
・退職所得控除の計算
70万円 × (30年-20年)+800万円 = 1,500万円
・退職所得金額の計算
(2,000万円 - 1,500万円) ×2分の1 = 250万円
・所得税の計算
250万円(退職所得金額) × 10% - 97,500円 = 15万2,500円
・住民税の計算
250万円(退職所得金額) × 4%(都民税) = 10万円
250万円(退職所得金額) × 6%(区民税) = 15万円
・所得税と住民税の合計額
15万2,500円(所得税) + 25万円(住民税)= 40万2,500円
・手元に残る退職金
2,000万円 - 40万2,500円 = 1,959万7,500円

参考:東京都主税局 「住民税の計算方法」

http://www.tax.metro.tokyo.jp/shitsumon/sonota/index_j.htm#j12

○まとめ

モデルケースをご覧いただくとわかるとおり、退職金所得に対する分離課税と税制優遇が大きな効力を発揮し、手元に残る金額が非常に多くなっています。高齢化が進み、退職後をセカンドライフというほど60歳以降も長きにわたって生活は続きます。
会社の制度や規定にもよりますが、どの程度の退職金が支給され、どれくらい課税された後、手元にいくら残るのか。あらかじめ把握しておくことで計画もたてやすくなりますし、老後の生活を送るうえでの不足分もわかってきます。そうすれば、足りない分を補うために確定拠出年金(DC年金)の利用や投資信託、満期返戻金をふまえたうえでの生命保険加入も視野に入ってくるでしょう。
現在、老後の生活に資金的な不安を抱える現役世代が急増しています。極端な景気回復の兆しも見えないなかで、老後をむかえる準備を行うためには、ご自身で将来の資金計画をたて、資産形成までを考えていく必要があります。そのうえで、不明な点などは適宜、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談してみましょう。
個人向けの投資商品や、生命保険の種類は年々増えています。それぞれに特徴があり、享受できるメリットもことなりますから、状況や目的に応じて使い分けることが重要です。これから先の人生、資金はいくらあっても困りません。少しでも多くの資金を確保することが、不安の解消になります。